遺族厚生年金を受ける条件とは?
2025.06.01
大切なご家族を亡くされたとき、生活の支えとなる制度のひとつに遺族厚生年金があります。
厚生年金保険に加入していた人が亡くなった場合、一定の条件を満たせば遺族に年金が支給されます。
今回は、遺族厚生年金の受給条件や遺族の範囲などについて、そのポイントを解説します。
目次
1. 遺族厚生年金とは
遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者または被保険者であった人が亡くなった場合に、その遺族に支給される年金です。会社員や公務員(だった人)の死亡した場合が主に想定されます。
配偶者や子どもがいる場合は、 遺族基礎年金に加えてこの年金が支給されるケースもあります。
遺族厚生年金や遺族基礎年金は、残されたご家族の生活の安定を図ることを目的としています。
遺族基礎年金については↓の記事をご参照ください。
2. 遺族厚生年金の受給条件
2-1 受給対象となるケース
遺族厚生年金は、次のいずれかのケースに該当した場合に支給されます。
(1) 厚生年金の被保険者が死亡したとき
(在職中に亡くなった場合など)
(2) 被保険者期間中に初診日のある病気や怪我が原因で、退職後、初診日から5年以内に死亡したとき
(3) 1級または2級の障害厚生年金を受給中、または受給資格のある人が死亡したとき
(4) 老齢厚生年金を受けている人(保険料納付済期間と免除期間を合わせて25年以上に限る)、または保険料納付済期間と免除期間を合わせて25年以上ある人が死亡したとき
2-2 保険料納付の条件
2-1(1)の被保険者の死亡、または2-1(2)の退職後死亡に該当する場合、次の納付要件があります。
・ 死亡日前日時点で、死亡日の属する月前の直近の基準月(1月・4月・7月・10月) の前月までに被保険者期間があるときは、その被保険者期間のうち保険料納付済期間と免除期間が3分の2以上あること。
※ ただし、令和8年4月1日以前の死亡については、死亡日前日時点で直近の基準月の前月までの 1年間に保険料未納期間がなければよいとされています。
また、厚生年金保険の被保険者期間(昭和36年4月1日以降)は、 国民年金の保険料納付済期間 とみなされます。これは基礎年金制度の創設によって、厚生年金加入者は同時に国民年金の被保険者でもあるためです。
3. 「死亡したとき」について
「死亡したとき」には、以下のケースも含まれます。
・ 行方不明となり、船舶や飛行機の事故などで3か月以上生死不明の場合
→ 死亡したものと推定されます。
・ 家出などで7年以上行方不明となり、民法上の失踪宣告が行われた場合
→ 死亡とみなされます。
このように、法的に死亡と判断された場合も、遺族厚生年金の支給対象となります。

4.遺族厚生年金を受給できる遺族の範囲
遺族厚生年金を受けることができる遺族の範囲は、死亡した人によって「生計を維持」されていた次の人です。
(1) 子どものいる配偶者(妻または55歳以上の夫):18歳未満(18歳になる年度の3月31日まで)または20歳未満で1級または2級の障害の状態にある子どものいる配偶者
(2) 子ども:18歳未満(18歳になる年度の3月31日まで)または20歳未満で1級または2級の障害の状態にある子ども
(3) 子どものいない妻
(4) 子どものいない55歳以上の夫
(5) 55歳以上の父母、祖父母
(6) 孫:18歳未満(18歳になる年度の3月31日まで)または20歳未満で1級または2級の障害の状態にある孫
※ 胎児だった子については、出生後に生計維持関係があったものとみなされ、対象に含まれます。一方で、入籍していない連れ子やもらい子は含まれません。
※ (3)から(6)の遺族は、遺族厚生年金の対象にはなりますが、遺族基礎年金の対象にはなりません。
また、(4)(5)は、遺族厚生年金が60歳からの支給開始になる点にも注意が必要です。
また、(4)(5)は、遺族厚生年金が60歳からの支給開始になる点にも注意が必要です。
5.「生計を維持」されていたとは?
死亡の当時、下記の2つの要件に該当した場合に、「生計を維持」されていたと認定されます。
5-1.生計を同一にしていること
(1) 配偶者または子どもの場合
① 住民票上、同じ世帯に属しているとき
② 住民票上、世帯は別にしているが、住民票上は同じ住所であるとき
③ 住民票上、住所は異なっているが、次のいずれかに該当するとき
a. 日常生活を共にし、かつ、消費生活上の家計を1つにしていると認められるとき
b. 単身赴任、就学または病気療養等のやむを得ない事情があって、
(a)生活費、療養費等の経済的な援助が行われていること
(b)定期的に音信、訪問が行われていること
が認められ、そのやむを得ない事情が消滅したときは、日常生活を共にし、かつ、消費生活上の家計を1つにすると認められるとき
(2) 父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、3親等内の親族の場合
① 住民票上、同じ世帯に属しているとき
② 住民票上、世帯は別にしているが、住民票上は同じ住所であるとき
③ 住民票上、住所は異なっているが、次のいずれかに該当するとき
a. 日常生活を共にし、かつ、消費生活上の家計を1つにしていると認められるとき
b. 生活費、療養費等の生活の基盤となるような経済的な援助が行われていると認められたとき
【参考資料】日本年金機構「生計同一関係証明書類等について」
5-2.収入要件を満たしていること
次のいずれかに該当する場合に、収入要件を満たします。
(1) 前年の収入が年額850万円未満であること(前年の収入が確定していない場合は、前々年で判断)
(2) 前年の所得が年額655.5万円未満であること(前年の収入が確定していない場合は、前々年で判断)
(3) 一時的な所得があるときは、これを除いた後、(1)または(2)に該当すること
(4) 上記(1)から(3)に該当しないものの、定年退職等の事情により、近い将来(概ね5年以内)に、(1)または(2)に該当すると認められること
※ 収入の確認資料として、以下のものが挙げられます。
・前年または前々年の源泉徴収票
・課税証明書
・確定申告書など収入額および所得額を確認することができる書類
・(3)(4)の場合、当該事情を証する書類等
【参考資料】厚生労働省「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて[国民年金法]」
・前年または前々年の源泉徴収票
・課税証明書
・確定申告書など収入額および所得額を確認することができる書類
・(3)(4)の場合、当該事情を証する書類等
【参考資料】厚生労働省「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて[国民年金法]」
※ 内縁の妻(夫)であっても、事実上婚姻関係と同様の事情(健康保険の被扶養者であるなど)にあり、生計を維持されていれば、遺族厚生年金を受給できます。
6.遺族の優先順位
遺族厚生年金を受けることができる遺族の優先順位は、次のとおりです。
第1順位:子どものいる配偶者(妻または55歳以上の夫)、子ども
第2順位:子どものいない妻または子どものいない55歳以上の夫
第3順位:55歳以上の父母
第4順位:孫
第5順位:55歳以上の祖父母
上位の順位に該当する遺族が受給できる場合は、下位の遺族には支給されません。
※ 配偶者が受給している間は、子どもへの支給が停止されます。
7. まとめ
遺族厚生年金は、大切なご家族の生活を守るための重要な制度です。
その受給には、厚生年金保険料の納付状況など、様々な条件があります。
遺族厚生年金の受給条件を理解し、適正に遺族厚生年金を受けましょう。

税理士・社会保険労務士
横浜市旭区二俣川の「すぎやま税務・労務事務所」代表。
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