社会保険の随時改定(月額変更届)とは
2026.08.06
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の保険料は、被保険者の標準報酬月額をもとに算定されます。
昇給や降給などで報酬が大きく変動したときは、年1回の定時決定を待たずに標準報酬月額を見直す「随時改定」が行われ、その際に提出する書類が「月額変更届」です。
要件の判定や改定のタイミングを誤ると、保険料の過不足や過去に遡っての訂正など、事業主・従業員双方に影響が及びます。
今回は、随時改定(月額変更届)の要件と改定時期、実務上の注意点を整理します。
目次
1.随時改定(月額変更届)とは
健康保険・厚生年金保険の保険料や、傷病手当金・出産手当金・年金といった給付の額は、被保険者の「標準報酬月額」をもとに計算されます。
標準報酬月額は、実際の報酬額を一定の幅ごとの等級に区分して定めるもので、現在、健康保険は第1級(58,000円)から第50級(1,390,000円)まで、厚生年金保険は第1級(88,000円)から第32級(650,000円)までの等級が設けられています。
標準報酬月額は、原則として毎年7月に届け出る「定時決定(算定基礎届)」により年1回見直しされます。
しかし、昇給や降給などにより報酬が大幅に変動した場合、次の定時決定まで実態と合わない標準報酬月額のままでは、保険料や給付が報酬の実態から離れてしまいます。
そこで、一定の要件に該当したときは、定時決定を待たずに標準報酬月額を見直すこととされており、これを「随時改定」といいます。
随時改定の際に提出する書類が「被保険者報酬月額変更届(月額変更届)」であるため、実務では随時改定のことを「月額変更」「月変(げっぺん)」と呼ぶことも多くあります。
なお、令和7年(2025年)に成立した年金制度改正法により、厚生年金保険の標準報酬月額の上限は、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円と段階的に引き上げられる予定です。上限付近の報酬の方がいる場合は、今後の等級の変更にも注意が必要です。
【参考資料】日本年金機構「随時改定(月額変更届)」
【参考資料】日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
2.随時改定の3つの要件
随時改定は、次の3つの要件をすべて満たした場合に行われます。1つでも欠けると随時改定には該当しません。
2-1.要件1:固定的賃金の変動があること
固定的賃金とは、支給額や支給率があらかじめ決まっており、稼働実績にかかわらず毎月支給される賃金をいいます。
これに対し、稼働実績に応じて毎月変動する賃金を非固定的賃金といいます。
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 固定的賃金 | 基本給、役職手当、家族手当、住宅手当、通勤手当、固定残業代、など |
| 非固定的賃金 | 残業手当、宿日直手当、能率給・歩合給(実績に応じて変動する部分)、など |
固定的賃金の「変動」には、金額の増減だけでなく、次のようなケースも含まれます。
(1) 昇給・降給(ベースアップ・ベースダウンを含む)
(2) 時給・日給などの単価の変更
(3) 日給から月給への変更など、給与体系の変更
(4) 手当の新設・廃止、支給額・支給率の変更
(5) 歩合給・請負給などの単価や歩合率の変更
残業手当のような非固定的賃金だけが増減しても、固定的賃金の変動がなければ随時改定の対象にはなりません。
2-2.要件2:2等級以上の差が生じること
固定的賃金が変動した月以後、継続した3カ月間に支払われた報酬の平均額から算出した標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額との間に、原則として2等級以上の差が生じることが必要です。
ここで注意したいのは、3カ月間の平均には残業手当などの非固定的賃金も含めて計算する点です。
そのため、たとえば少額の昇給と同じ時期に残業が重なると、固定的賃金の変動幅以上に等級が大きく動くことがあります。
一方、固定的賃金の増減の方向と、標準報酬月額の増減の方向が一致しない場合は、随時改定の対象になりません。
たとえば、昇給(固定的賃金の増加)があったものの、残業の減少により3カ月平均では従前より2等級以上下がったようなケースは、随時改定に該当しません。
また、標準報酬月額の等級には上限・下限があるため、上限・下限の付近では2等級以上の差が生じ得ない場合があります。このような場合には、報酬の実態として大幅な変動があったときに限り、1等級の差でも例外的に随時改定の対象となります。

2-3.要件3:支払基礎日数が3カ月とも17日以上あること
固定的賃金が変動した月以後の3カ月とも、報酬の支払基礎日数(給与計算の基礎となった日数)が17日以上あることが必要です。特定適用事業所などに勤務する社会保険適用対象の短時間労働者については11日以上とされています。
なお、定時決定(算定基礎届)には、パートタイマーについて17日未満の月がある場合に15日以上の月で算定する取扱いがありますが、これは定時決定に限った取扱いであり、随時改定には適用されません。3カ月のうち1カ月でも支払基礎日数が基準に満たない月があれば、随時改定は行われません。
【参考資料】日本年金機構「随時改定(月額変更届)」
3.改定のタイミングと保険料への反映
随時改定では、変動後の報酬を初めて受けた月を1カ月目として、3カ月間の報酬の平均で判定し、その翌月(4カ月目)に標準報酬月額が改定されます。
たとえば、4月に支給する給与から昇給を反映した場合は、次のようになります。
| 項目 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 |
|---|---|---|---|---|
| 給与の支給 | 1カ月目 | 2カ月目 | 3カ月目 | ー |
| 標準報酬月額 | 従前 | 従前 | 従前 | 改定 |
このケースでは、4月・5月・6月に支払われた報酬の平均で判定し、7月から新しい標準報酬月額が適用されます。
給与から控除する保険料は、翌月控除(前月分の保険料を当月の給与から控除する方式)の場合、8月に支給する給与から新しい保険料に切り替わります。
定時決定と随時改定を比較すると、次のとおりです。
| 項目 | 随時改定 | 定時決定 |
|---|---|---|
| 判定対象の報酬 | 変動月以後の3カ月 | 4月・5月・6月 |
| 改定(決定)月 | 変動月から4カ月目 | 9月 |
| 等級差の要件 | 原則2等級以上 | なし |
| 提出書類 | 月額変更届 | 算定基礎届 |
なお、「昇給を決定した月」ではなく「変動後の報酬を実際に支払った月」が起算月となる点に注意が必要です。
給与が翌月払いの会社で4月分の給与から昇給する場合、変動後の給与が最初に支払われるのは5月ですので、5月・6月・7月の平均で判定し、8月改定となります。
【参考資料】日本年金機構「随時改定(月額変更届)」
【参考資料】日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」
4.月額変更届の提出手続き
4-1.提出書類・提出先・提出期限
(1) 提出書類
「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届」を使用します。
(2) 提出先
事務センターまたは管轄の年金事務所に提出します。電子申請(e-Gov等)による提出も可能です。
健康保険組合に加入している場合は、健康保険組合への提出も必要です。
(3) 提出期限
随時改定の要件に該当したら、速やかに提出することとされています。「翌月末まで」といった具体的な期限が定められているわけではありませんが、3カ月目の報酬額が確定した時点で判定し、遅滞なく提出するのが実務の基本です。
(4) 提出後の流れ
届出後、標準報酬月額の決定通知書が交付されます。改定後の標準報酬月額にもとづく保険料を、給与計算に忘れずに反映させましょう。
4-2.算定基礎届(定時決定)と重なる場合の取扱い
7月・8月・9月に随時改定が行われる方(7月改定・8月改定・9月改定)は、同じ年の定時決定の対象から除かれ、月額変更届による改定が優先されます。
具体的には、7月改定に該当する方は算定基礎届の提出対象から除外し、月額変更届を提出します。8月または9月に改定が予定される方についても、あらかじめ申し出ることにより算定基礎届の提出を省略できる取扱いがあります。
ただし、8月・9月の改定を見込んでいたものの、結果的に2等級以上の差が生じず随時改定に該当しなかった場合には、改めて算定基礎届の提出が必要となります。
【参考資料】日本年金機構「月額変更届(報酬額に大幅な変動があり、随時改定に該当するとき)」
【参考資料】日本年金機構「8月、9月の随時改定予定者にかかる算定基礎届の提出について」
5.実務上の注意点
5-1.固定的賃金かどうか迷いやすい手当
(1) 通勤手当
定期代のように毎月定額のものだけでなく、出勤日数に応じて日額単価で支給している通勤手当も、単価が決まっている以上は固定的賃金に該当します。
公共交通機関の運賃改定や通勤経路の変更により通勤手当の額が変わった場合も、固定的賃金の変動となります。社内で昇給を決定していなくても随時改定の契機になり得るため、見落としに注意が必要です。
(2) 固定残業代(みなし残業代)
実際の残業時間に応じて支払う残業手当は非固定的賃金ですが、毎月定額で支給する固定残業代は固定的賃金に該当します。固定残業代の計算の基礎となる時間数や単価を変更した場合は、固定的賃金の変動として随時改定の判定が必要です。
(3) 歩合給・インセンティブ
売上実績などに応じて毎月変動する歩合給そのものは非固定的賃金ですが、歩合の単価や率を変更した場合は固定的賃金の変動として取り扱われます。
5-2.月の途中で昇給した場合の変動月
月の途中で昇給し、その月は日割り計算などで昇給後の賃金が満額支給されない場合は、昇給後の賃金が初めて満額支給された月が変動月となります。
たとえば、20日締め・当月末日払いの会社で4月1日に昇給した場合、4月末に支給される給与(3月21日~4月20日分)には昇給前の期間が含まれるため、昇給後の賃金が初めて満額支給されるのは5月末の給与です。
この場合は5月が変動月となり、5月・6月・7月の3カ月で判定し、8月改定となります。誤って4月から起算しないよう注意しましょう。
5-3.遡及昇給と昇給の反映漏れの違い
過去分の昇給差額をまとめて支給するケースには、性質の異なる2つの場合があり、変動月と届出時の報酬額の取扱いが異なります。
| 区分 | 変動月 | 月額変更届に記入する報酬額 |
|---|---|---|
| 昇給の反映漏れ | 本来昇給後の給与を支給すべきだった月 | 後から支給した差額を含める |
| 遡及昇給 | 差額を含めて初めて支給した月 | 過去分の昇給差額は除く |
給与計算の誤りにより昇給の反映が漏れていた場合は、本来の支給月を変動月として扱います。
一方、賃金交渉の結果などにより昇給が遡って決定された場合は、差額を含めた昇給後の賃金を初めて支給した月が変動月となり、算定にあたっては前月以前の分の差額を除いて計算します。
混同しやすいポイントですので、差額支給の原因がどちらであるかを確認してから判定することが大切です。
5-4.届出漏れがあった場合
固定的賃金の変動を見落としていた場合や、届出を失念していた場合は、判明した時点で月額変更届を提出します。この場合、本来の改定月に遡って標準報酬月額が改定され、保険料の差額の精算(追納または還付)が生じます。
届出漏れのまま放置すると、次のような影響があります。
(1) 保険料を過大または過少に納付した状態が続く
(2) 傷病手当金・出産手当金など、標準報酬月額をもとに計算される給付の額が本来と異なってしまう
(3) 将来の年金額の計算に影響する
(4) 遡及改定の結果、その後に提出済みの算定基礎届・月額変更届の内容にも連動して訂正が必要になる
年金事務所の調査で提出漏れを指摘されるケースもあります。遡及訂正の事務負担は非常に大きいため、給与改定の時期はもちろん、運賃改定や手当の見直しなど固定的賃金に影響する事象を、毎月の給与計算の中でチェックする体制を整えておくことが重要です。
【参考資料】日本年金機構「随時改定(月額変更届)」

6.随時改定に関連する特例・別の手続き
6-1.年間平均による保険者算定の特例
業務の性質上、例年特定の時期に残業が集中するなど、季節的な報酬変動によって随時改定を行うと標準報酬月額が実態とかけ離れてしまう場合があります。
このような場合には、平成30年10月から、通常の3カ月平均に代えて年間報酬の平均により標準報酬月額を算定できる特例(保険者算定)が設けられています。
この特例の適用には、通常の随時改定による等級と年間平均による等級との間に2等級以上の差があり、その差が業務の性質上例年発生することが見込まれること、被保険者本人の同意があることなどの要件を満たしたうえで、申立書・同意書等を添付して届け出る必要があります。
【参考資料】日本年金機構「月額変更届(随時改定の際、年間報酬の平均で算定するとき)」
6-2.育児休業等終了時改定・産前産後休業終了時改定
育児休業や産前産後休業から復帰した後、時短勤務などにより報酬が下がった場合には、通常の随時改定とは別に「育児休業等終了時改定」「産前産後休業終了時改定」という仕組みがあります。
復帰後3カ月間の報酬の平均により、1等級の差でも標準報酬月額を改定できる点が通常の随時改定と異なります。
この改定の届出は任意です。標準報酬月額が下がると保険料負担は軽くなる一方、傷病手当金・出産手当金など標準報酬月額をもとに計算される給付の額も下がるため、任意の取扱いとされています。
また、3歳未満の子を養育する期間について改定を行う場合は、「養育期間標準報酬月額特例申出書」を併せて提出することが重要です。
この特例により、標準報酬月額が下がっても、子が3歳になるまでの間は従前の標準報酬月額にもとづいて将来の年金額が計算されるため、保険料負担を抑えつつ年金額の低下を防ぐことができます。
【参考資料】日本年金機構「育児休業等終了時報酬月額変更届の提出」
【参考資料】日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
6-3.70歳以上の従業員の取扱い
厚生年金保険の被保険者資格は70歳到達で喪失しますが、70歳以上で勤務を続ける「70歳以上被用者」についても、随時改定に該当する報酬の変動があった場合は「70歳以上被用者月額変更届」の提出が必要です(様式は被保険者報酬月額変更届と一体になっています)。
70歳以上75歳未満の方は健康保険の被保険者であるため健康保険料の算定に必要となるほか、在職中の老齢厚生年金の支給調整(在職老齢年金)の計算にも標準報酬月額相当額が用いられるため、厚生年金保険の被保険者でなくなった後も届出が求められます。
【参考資料】日本年金機構「月額変更届(報酬額に大幅な変動があり、随時改定に該当するとき)」
7.まとめ
随時改定(月額変更届)は、報酬の実態に合った標準報酬月額を保険料や給付に反映させるための重要な手続きです。
「固定的賃金の変動」「2等級以上の差」「支払基礎日数17日(短時間労働者は11日)以上」の3要件をすべて満たすかどうかを、変動月から3カ月分の給与が確定した時点で判定し、該当する場合は速やかに月額変更届を提出することが求められます。
通勤手当や固定残業代の変更など、見落としやすい固定的賃金の変動も随時改定の契機となるため、給与計算のたびに固定的賃金の変動の有無を確認する仕組みを作っておくことが大切です。
判定に迷うケースや届出漏れが見つかった場合の対応など、個別の事案については社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

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